「業界を変革したい」高い志でビジネスを切り拓く若き女性起業家の挑戦
Taniaさんは皮革製品ブランド「Karigar」を経営する、若き女性起業家です。決して諦めず、数々の困難を乗り越えてきた彼女は、今やバングラデシュの傑出した起業家として数々の賞を受賞しています。本日はTaniaさんの工場を訪れ、お話を伺いました。
Cocoro: Taniaさんは専門学校で皮革関連の技術を学び、卒業後すぐに起業したと伺っています。学生時代から起業に対する思いは強かったのでしょうか?
Tania: 13歳のときに通っていた学校行事でのビジネス体験が起業への思いに繋がりました。行事では焼き物の鉢植えをデザインし、実際にお客さんに商品を販売したんですよ。自分がデザインした商品でお客様が喜んでいる様子を目の当たりにし、起業への意識が強くなっていったんだと思います。その後、専門学校に入学し、皮革技術を学びました。授業中にはいつも新しいバックやシューズのアイディアばかり浮かんできて、肝心の授業を聞いておらず、先生に怒られたりすることがありました。今となれば、とても良い思い出ですね。
Cocoro: 起業までの道のりは大変だったのでしょうね。
Tania: バングラデシュでは、女性が起業するということは、それだけで大きな困難を背負います。家族も大反対でした。特に皮革製品に関わる仕事は男の仕事と見なされていましたから。また「靴職人」というのは、古い社会では蔑視の対象でしたので、嫌がる親戚もいました。父が早く亡くなり、男の兄弟もいなかったので、何をやるにも壁がありました。
例えば工場を借りるにも女性だという理由だけで、まったく相手にされません。それでも私はあきらめず、何回も何回も不動産会社を訪れ、小さな場所を借りることができました。一事が万事で、簡単に行くことの方が稀でした。
また、原材料のなめし革を買いにいくにも、市場で女性蔑視の言葉やセクハラを受けることが日常茶飯事でした。悔しい思いを何度もしましたが、そんな時は「私は正しいことをしている。間違っていない。」といつも自分に言い聞かせました。つらいことが多かったですが、このような逆境こそが私を大きく成長させる糧だったと、今は思っています。
Cocoro: Karigarは高い評価を受けていますが、どのように事業を展開されたのですか?
Tania: まずマーケット調査から始めました。注目したのは企業の販促用の革製品グッズです。革製のバインダーとか、バッグ、小物などです。調べてみて分かったのは、バングラデシュ国内でも多くの企業が革製品を販促用に活用していることです。しかし、大半が中国など海外からの輸入でした。
この市場は国内メーカーの手がついていないが、需要は十分にあり、既存製品は技術的にも競争できるレベル。ブランドがなくとも、地元のメーカーとしての利点を活かし、この分野は開拓できると思いました。
もちろん最初から簡単には行きませんでした。デザインしたサンプルを企業に持参しましたが、失敗の連続です。サンプルを見せても90%以上の企業からは断られ、セクハラまがいの厳しい言葉も投げかけられました。それでも、サンプルを繰り返し改善し、企業のニーズを丁寧に聞いていくうちに徐々に私達への信頼が生まれてきました。最初の大口は外資大手のBritish American Tabacco でした。事業を開始して2年が過ぎた頃です。これをきっかけにビジネスが拡大し、良い評判が広まりました。
設立当初、工員1人と私、ミシン1つだった会社も、グループの従業員が60名を超える会社となりました。今ではバック、シューズ、レザージャケット、財布など様々な種類の革製品を取り扱っています。また、自社ブランドを販売する小売店鋪を3店舗保有し、国内外からのOEM生産も請負っています。様々な賞を受賞し、新聞やテレビなどのメディアで紹介されるようになると、今まで嫌がっていた親戚も人が変わったように私を受け入れてくれるようになりました(笑)。
Cocoro: 多くの困難を乗り越えてまで起業しようとしたのはなぜですか?
Tania: 私は業界と社会を変えたいと思ったからです。なめし革を売るだけでなく、革製品の加工もバングラデシュで技術力をつけて産業を発展させたい。また家族経営が多いこの業界を近代化し、組織でビジネスを展開するようにしたい。このモチベーションが自分を支えています。
自社だけでこのビジョンを実現することは難しいので、同業者で組合を作りました。技術やデザインなどを共有し、少しでも業界のレベルアップに繋がるように活動しています。おかげさまで、この組合も様々な応援に支えられ、発展しています。
Cocoro: 10年後、Karigarはどんな会社になっているでしょうか?また、日本に期待することはありますか?
Tania: 今は国内市場をターゲットにしていますが、いずれ技術力と生産管理力をつけて国際展開したいと思っています。
日本には皮革製品の縫製技術、包装技術、製造機械など技術面のサポートを期待しています。例えば、皮革製品組合がお金を出し合い、バングラデシュの工員を日本に研修に行ってもらう、派遣プログラムなどが意義があると思います。派遣者が帰国後、自社のみならず、同業者に技術指導を行うようにできれば良いと思っています。
【編集後記】
Taniaさんは、まだ32歳の若さですが、バングラデシュ女性商工会議所の理事、世界銀行や国際機関の民間セクター開発のコンサルタントなど、自社の経営以外にも公的な活動にも力を注いでいます。「こうした活動ができるのは信頼できる従業員のおかげ」と語るTaniaさん。その意思の力と志の高さに強い感銘を受けました。