ICT(情報通信技術)でバングラデシュ農業を支援する女性社会起業家
WIN Incorporate代表のKashfia Ahmedさんは、ICTを活用してバングラデシュの農家を支援する女性社会起業家です。本日は、弊社オフィスにKashfiaさんをお迎えし、お話を伺いました。通信インフラの普及が、農業開発に役立つ好事例です。
Cocoro: Kashfiaさんは日本の大学や研究機関で働いた後、バングラデシュに戻って起業されたそうですね。安定した仕事を捨てて、起業した理由を教えて下さい。
Kashfia: 1998年に日本の文部科学省の奨学金を受けて、東京農工大学の博士課程に留学することができました。博士課程では漁業関係の研究を行い、2003年に農業博士号を取得しました。その後、筑波にあるJIRAS(国際農林水産産業研究センター)で勤務していましたが、父の一言が転機となりました。「日本にはKashfiaのような才能を持つ人はたくさんいる。あなたを本当に必要としているのはバングラデシュだ。」2005年に、私は母国に戻る決心をしました。
当初は起業しようとした訳ではなく、農業コンサルタントとしてプロジェクトに関わる仕事をしていました。これはICTを活用して農民に農業関連の情報を提供するもので、今の仕事のきっかけとなりました。プロジェクトの終了と共に、このアイデアを持続的なビジネスにして継続的な農民支援を図ろうと2006年にWIN Incorporationを設立しました。
Cocoro: WIN Incorporateについて説明をお願いします。
Kashfia: WIN Incorporateは、携帯電話を活用した農家へのヘルプライン・ビジネスを中心に、バングラデシュで眠っている農業関連の論文や資料をデジタル化するサービスや、農村をICTで支援するプロジェクトなどにも参加しています。WINでは、農業に関わる農民や中小企業のための情報プラットフォームの構築を目指しているのです。
Cocoro: 携帯電話を活用したヘルプライン・ビジネスとは、どのようなものですか。
Kashfia: これは農家の人が困った時に、携帯電話で相談することができるコールセンターです。24時間体制で訓練を受けたオペレータが対応しています。バングラデシュの大手携帯電話会社と業務提携し、2008年より本事業を開始しました。このサービスにかかる通信料(1分5タカ=約7円)を携帯電話会社、コールセンター、WINの3者で収入按分するモデルとなっています。
WINは、オペレータが参照する資料の作成と専門的な質問に対するバックアップの役割を担っています。資料はデータベースに置かれ、オペレータが瞬時に必要な情報を入手できるように設計されています。現在、毎日1500件ほどの相談をコールセンターで受けており、相談事の90%が農作物の病気に関するものです。
当初はBanglalinkという携帯電話会社の1社だけでしたが、今年から大手全てがWINと提携し、このサービスを導入することに成功しました。これからは、もっと携帯電話会社に宣伝してもらい、更に多くの農家の人々に活用してほしいと思っています。
Cocoro: 今後のWIN Incorporateの事業はどのような展開を予定していますか?
Kashfia: ネット環境が発達する中で、WIN Incorporateでは3G対応のコンテンツ開発を進めています。農業栽培方法を動画で紹介するなど、視覚的で分かりやすいコンテンツの作成を行なうつもりです。また、情報提供サービスを農業のみならず、畜産、水産業へと横展開して行く活動も計画して行きます。具体的には漁業分野において中流階層向けに新鮮な生魚の宅配サービス事業を計画中です。安全で安心な高品質の魚をお客様に配達出来るようなシステムを計画中です。
Cocoro: 最後に日本に期待することを教えて下さい。
Kashfia: これから3Gのインフラを活用した農業関連のコンテンツ・アプリケーションを開発していく予定です。こういったアプリケーション・ソフトウェアの分野で恊働できるところがあれば、是非一緒に仕事をしたいです。日本の優れたソフトウェア技術でより良いサービスになる可能性が大いにあります。
Cocoro: Kashfiaさん、本日はどうもありがとうございました。
【編集後記】
日本で7年間を過ごしたKashfiaさんは日本語も流暢で、知的かつ謙虚な方でした。ビジネスについて話す表情はとても真剣でしたが、「お寿司が大好物!」と話す時の笑顔は印象的でした。