バングラデシュの女性社会起業家を考えるダイアローグ
2014年9月6日(土)午後、日本とバングラデシュの女性社会起業家、女性起業家支援組織、JICAを始めとする国際機関、大学関係者、NGO関係者など22名をご招待し、「日本・バングラデシュ女性社会起業家ダイアローグ2014」を開催致しました。参加者の方々の心動かされるストーリーと熱いコメントに溢れた充実したセッションとなりました。
主催: Cocoro LimitedとSME Foundation(バングラデシュ政府の中小企業支援組織)の共催
後援: 在バングラデシュ日本国大使館、JICAバングラデシュ事務所、JETROダッカ事務所
本ダイアローグは、二つのセッションに分かれ、第1セッションではプレゼンテーション、第2セッションでは参加者による対話を行いました。最後に、これらの議論をふまえ、今後のバングラデシュにおける女性社会起業家を支援するために日本とバングラデシュ間で連携するための課題やヒントを整理し、次に繋げていく意思を確認し、本ダイアローグを終了致しました。
セッション1:支援組織と女性社会企業経営者の事例紹介
1)プレゼンテーション:アジア女性社会起業家ネットワークについて
講師:一般社団法人re:terra(リテラ)代表の渡辺さやかさん
アジア女性社会起業家ネットワークは、メコン地域をはじめとする女性起業家同士の協働を目的とするもので、活動を拡大して機会の最大化を目指されています。
本年8月に行われてバンコクでの「アジア女性社会起業家セミナー」では、これまで充分な支援がなかった、メコン川流域で活動する女性社会起業家の、機会拡大のための資本共有とネットワーク形成を目的として開催され、メコン川流域で活動する女性社会起業家ら約40名がタイ・バンコクに集まり、「メコン川流域の現状理解」「アジアの女性社会起業家の地位向上」「女性社会起業家エコシステム構築」「キャパシティビルディング」「ビジネスモデル再考とコラボレーション」の5つのテーマでトークセッションを開催。
公式ウェブサイト:http://www.reterra.org/awse/
「アジア女性社会起業家ネットワーク(Asian Women Social Entrepreneurs Network)」の中心メンバーである一般社団法人re:terra(リテラ)代表の渡辺さやかさんが日本から参加頂き、同ネットワールのバンコクでのセミナーの様子や東南アジアでの女性社会起業家の実態調査の結果などをプレゼンテーション頂きました。東南アジア各国のそれぞれの事情をふまえ、法制度の違い、中間団体の有無、資金調達形態などの観点から東南アジアにおける女性社会起業家の現状を整理された説明は大変興味深いものがあり、参加者はしきりにメモを取っていました。
2)事例紹介:バングラデシュの女性社会起業家1
講師: One Degree Initiative Foundation代表のSababaz Rashid Diyaさん
One Degree Initiative Foundationは、2005年にバングラデシュに設立されたソーシャル・エンタープライズで、若いボランティア7000名を動員して様々なプロジェクトに取り組み、社会起業家の支援も積極的に行っています。
Diyaさんからは、自分が社会起業家になるまでの経緯とOne Degree Initiativeの経営者としての課題や問題意識を話して頂きました。友人達と15歳の時に洪水の被害者を支援しようと小遣いを節約した資金で活動を始めたことがきっかけで、社会を少しでも良くしようと取り組んできたとのこと。そのような活動を通じて、自分自身経営者としての孤独感を体験し、メンターの大切さを痛感。今、新しく起業しようとする若者を支援することに使命を感じて取り組んでいるとのことです。若者らしい「何でもやってやろう」と失敗を恐れずに気概を持つことが大事と訴えています。
One Degree Initiativeについては弊社のホームページの記事をご参照ください。
3)事例紹介:バングラデシュの女性社会起業家2
講師:Team Engine代表のSamira Zuberi Himikaさん
ソーシャル・エンタープライズ Team Engineの代表Samira Zuberi Himikaさんは、バングラデシュの生粋の社会起業家として活躍するソーシャル界の第一人者です。
Himikaさんからは、Team Engineの事業、特に現在進めているNational Entrepreneur Summit (全国起業家サミット)の取り組みについて話して頂きました。昨年32,000人が参加した本サミットは、ビジネスや企業経営に関するセミナーやワークショップ、ビジネスプラン・コンテストなど様々なプログラムを用意して、今年も12月に開催するそうです。日本とのコラボレーションについては、バングラデシュのものづくりの弱さを補強するための仕組みや人材交流プログラムが必要と提案しています。また、資金調達だけでなく、資金運用(ファンド・マネジメント)も、日本の協力でレベルアップすべきと提唱しています。
Team Engineについては弊社のホームページの記事をご参照ください。
4)プレゼンテーション:JICAのバングラデシュにおける起業家支援について
講師:JICAバングラデシュ事務所 企画調査員(民間セクター) 弓削泰彦さん
弓削さんからは、JICAバングラデシュ事務所が推進している民間セクター開発、中でも中小企業支援と女性起業家への支援についてお話を頂きました。JICAはバングラデシュの中央銀行を通じた中小企業ファイアナンスを進めていますが、資金を提供するだけでなく、経営や資金調達・運用についてのメンタリングやカウンセリングと組み合わせたプログラムを現在検討中で、まずは400社に対して支援する方針とのことでした。特にその少なくとも20%は女性の起業家を対象とするとのことです。また、日本とバングラデシュ企業との連携については、法制度や規制面で改善の必要性を指摘されています。Cocoroが運営を委託されているSocial Development Platform for Entrepreneurs (社会開発のための起業家プラットフォーム)についても説明頂きました。
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セッション2:女性社会起業家支援へ向けての日・バ間の連携について
セッション2では、CocoroのアドバイザーであるDr. Ananya Raihanがモデレーターとなり、参加者からそれぞれ日本とバングラデシュの連携について、自分の仕事や活動との関わりの中で、意見を出して頂きました。
女性社会起業家とは
女性社会起業家というテーマは、バングラデシュにおいては新しいものです。一般の起業家と社会起業家の違いについても、共通の理解はありません。本ダイアローグでは、そのイメージを共有することから議論を始めました。
いろいろと意見のある中で、Diyaさんは社会起業家を「Doing good for the people and doing good for yourself」と定義されていたのが印象的でした。一方、製薬会社がいくら病を治すためとはいえ、極端に利益を出す企業を社会的企業とは認めたくないという意見もありました。女性は家族を思いコミュニティを思う気持ちが強いので、社会起業家の素質が基本的にあるのではないかという議論もありました。
なかなか明確な定義がしにくいところですが、本ダイアローグが対象とするのは、広い意味で社会の諸課題を解決することを目的として、営利活動を行う女性起業家という理解で議論を進めることと致しました。
どのような支援が必要か
今回のダイアローグで特徴的であったのは、支援が必要なものとして「資金」という回答が少なかったことです。資金はもちろん必要であるが、起業家が本当に必要としているのはアイデアを形にするために相談するメンターや、技術的なノウハウの伝授、パッケージやマーケティングの方法についてのトレーニングといったものでした。
日本との協調のなかで印象的であったのは、ものづくりに対しての期待の大きさです。バングラデシュの社会起業家は圧倒的にサービス関係のビジネスが多く、ものづくりに携わる人が少ない。日本は技術大国であり、この点でのバングラデシュへのサポートが欲しいという意見です。特に品質面でのサポートについては、多くの人が指摘していました。
1)日本で成功している社会起業家のビジネスモデルを伝えてほしいーBangladesh Federation of Women Entrepreneurs 代表 Rokea Afzal Rahmanさん
Bangladesh Federation of Women Entrepreneursは、2006年に設立された女性起業家支援組織で、女性起業家同士のネットワークづくりや様々な支援プログラムを展開しています。
バングラデシュの有数の企業グループの経営者であるRokeaさんは、単に利益を上げるだけのビジネスでは満足できないと断言されていました。社会への貢献があってこそ、本来のビジネスであると。Rokeaさんは、女性の起業家を支援する活動を積極的に進めておられ、バングラデシュで最も尊敬されている女性の一人です。
2)自分たちの商品を日本に知らせる機会や手段が欲しいーKarigar社代表 Tania Wahabさん
当地で皮革製品に携わる女性起業家のTaniyaさんは、バングラデシュで最優秀女性起業家など数々の賞を受賞している若手の経営者です。自社の繁栄だけでなく「バングラデシュの皮革業界のあり方を大きく変革したい」という強い意志で取り組んでおり、皮革業者の質の向上や新たな市場開拓に向けて活動しています。組合を作り、従来の皮革業界では考えられなかった技術面での共有を積極的に進めています。
3)技術者や経営に関する支援が必要ーWIN Incorporated代表 Kashfia Ahmedさん
Kashifiaさんは、日本の大学での学び(博士課程)、日本での就職も含め7年間を日本で過ごした後、母国のために貢献しようとバングラデシュに戻り、ITを活用した農業・農民の支援に取り組んでいます。次世代のために美しい国を作りたい。今の自分たちが直面している問題が解決し、新たな革新と創造を次世代に担ってもらうための土台を自分たちで作る責任があると、Kashfiaさんは熱い思いで語ってくれました。
日本とのクロスボーダーの連携について
様々なニーズがある中で、どのように日本とバングラデシュ間のクロスボーダーの連携が可能か。JICAなどにその推進を期待する声もありましたが、民間同士で連携する仕組みを作る方法も検討すべきとの意見も多く出ました。
日本側からの参加者の皆さんからは、それぞれの経験や担当されているお仕事で得られた貴重なコメントを頂きました。次に繋がるコメントとして渡辺さんと清水さんのコメントをご紹介します。
起業家が繋がる橋渡しのための3点ーre:terra 渡辺さやかさん
渡辺さやかさんは、ご自身のネットワークづくりのご経験から、今後検討すべきポイントとして3点挙げられました。1点目は、ICT(情報通信技術)の利用。展示会なども効果的だがコストが高くなる。ICTにより、両国間で安く広くマーケティングできる仕組みを作れないか。2点目は、ステークホルダー同士のつながりをどう実現するか。両国間で、誰が何をしているのか、非常に分かりにくい。まずはお互いの事例を記事やレポートにして広く人々に知らせることから始められないか。3点目は技術について。日本側の技術系スタートアップはシリコンバレーなど欧米を向いている人が多いので、もっとバングラデシュのような市場を向くようにしていくことも大切と述べられました。
日本へ売り込むためのポイントを3点ー日本国際協力センター 清水恭代さん
清水さんは、前職でバングラデシュに拠点を持つ日本のNGOで現地代表をなさっておられ、農村女性の手作りのクラフトを日本に販売する活動をした経験から、日本に商品を売り込むためのポイントを3点挙げられました。1点目は品質。品質は妥協できる点もあるが、品質の善し悪しを決める鍵となる部分をきちんと守ることが大事。この鍵となる部分を現地の人と共有して進めてくことに困難を感じることがあったとのこと。2点目は期限の遵守。納品の期限については日本のバイヤーは厳しい。3点目はデザイン。日本人の趣味趣向に合わせたデザインを見つけることが大切とのアドバイスでした。
まとめ
最後にモデレーターのDr. Raihanより、今後の検討課題あるいは実際に連携を作っていく上でのヒントとして、本ダイアローグで得られたポイントを以下の7点にまとめています。
1.スケーラビリティの確保(DiyaさんやHimikaさんの人を繋ぐノウハウは学ぶべき)
2.成長ファンドの必要性
3.ものづくり・商品開発についての連携
4.相互を知るためのコミュニケーションの手法の開発(情報発信の重要性)
5.バングラデシュの法制度、規制等の改善(日本との連携がしやすいように障害を緩和)
6.成功事例の共有(成功に至るまでのステップについても)
7.ITの活用
本ダイアローグは、キックオフとして相応しい充実した会議となりました。この結果を受けて今後の具体的なアクション向けて計画を立てていきたいと思います。
ご参加頂いた方々、ご後援を頂きました在バングラデシュ日本大使館、JICAバングラデシュ事務所、JETROダッカ事務所の方々には、心から御礼申し上げます。本当にありがとうございました。